生物医化学研究室:農業や医療での補充目的のための天然酵素の精製法を開発

酸性キチナーゼ(acidic chitinase, Chia)は,喘息,アレルギー性炎症,食物消化に関わっている。我々は,キチンカラムと 8 M 尿素を用いて,ニワトリとブタの胃組織から,優れた酸安定性およびプロテアーゼ耐性をもつ Chia を精製した(尿素-Chia)[Tabata et al., Sci. Rep. 7, 6662 (2017); Tabata et al., Sci. Rep. 7, 12963 (2017)]。本研究において,酢酸は,キチンカラムを用いた,胃由来の天然 Chia(酢酸-Chia)を精製するのに相応しい溶液であることを報告する。Chia は,0.1 M 酢酸(pH 2.8)によって,キチンカラムから溶出したが,0.1 M Gly-HCl (pH 2.5),酢酸ナトリウム(pH 4.0 または pH 5.5)では溶出しなかった。示差走査蛍光定量法により評価した Chia の融解温度は,それらの溶出緩衝液で大きく変化しなかった。また,酢酸は,酢酸と類似した構造をもった有機酸よりも,カラムから酵素を効果的に溶出した。以上の結果に基づき,Chia-キチンの解離が,酸変性ではなく,キチンと酢酸の競合に基づく,という新規の概念を提示する。酢酸-Chia は,尿素-Chia と類似のキチナーゼ活性を有し,Chia が,並外れた酸,プロテアーゼ,変性剤に対する安定性を有していた。酢酸-および尿素-Chia は,補充酵素として,農業や医療目的で,キチン消化あるいは有望な治療剤としての高い可能性を有している。

研究成果_田畑4