生物医化学研究室:食虫性非ヒト霊長類のマーモセットが, 酸性キチナーゼを胃で特異的に発現し,昆虫のキチンを消化できることを解明

食糧に関わる基礎研究:食虫性非ヒト霊長類のコモンマーモセット (Callithrix jacchus) は, 酸性キチナーゼを胃で特異的に発現し,昆虫のキチンを消化し得る

概要:キチンは,N-アセチル-D-グルコサミン (GlcNAc) の重合体で,昆虫の主要な構成成分である。昆虫は普遍的な生物で,タンパク質に富み,飼料転換効率が高い。最近,我々は,酸性キチナーゼ(Acidic Chitinase, CHIA)が,マウス,ブタ,ニワトリ(雑食性)で消化酵素として働き,イヌ(肉食性)とウシ(草食性)ではそのような働きが認められなかったので,食性が Chia の発現レベルと,動物におけるキチンの消化性を決める,と報告した。コモンマーモセット (Callithrix jacchus) は新世界ザルに属し,マウスモデルとヒトの疾患の種差を埋めるための橋渡しとなる可能性がある。コモンマーモセットは,食虫性の非ヒト霊長類で,CHIA の発現レベルと酵素機能は知られていない。今回我々は,コモンマーモセットが,ペプシン,トリプシン,キモトリプシン耐性を持つCHIA を,胃で多量に発現することを報告する。CHIA は,pH 2.0 で最大活性を示し,消化器系条件下で,キチンとミールワーム幼虫の殻を (GlcNAc)2 へと分解した。コモンマーモセットとカニクイザル(旧世界ザル)は,2 つの CHIA 遺伝子をゲノムにもつが,胃では,主として, 1 つの CHIA 遺伝子が発現していた。このように,この研究は,新世界ザルにおいて初めての CHIA の発現レベルおよび酵素機能の解析であり,この種における,食への適応と消化の理解を深めるものである。

<発表雑誌>
雑誌情報:Scientific Reports 9, 159 (2019).
論文名:High expression of acidic chitinase and chitin digestibility in the stomach of common marmoset (Callithrix jacchus), an insectivorous nonhuman primate
DOI:10.1038/s41598-018-36477-y.
発表者:工学院大学 先進工学部 生命化学科 生物医化学研究室
Tabata, E., Kashimura, A., Uehara, M., Wakita, S., Sakaguchi, M., Sugahara, Y., Yurimoto, T., Sasaki, E., Matoska, V., Bauer P. O. and Oyama, F.