生物医化学研究室:医療利用を目的とした高活性化ヒト酸性キチナーゼ (Chia) の作製を報告

 ヒトの肺では、加齢に伴い真菌、寄生虫、ダニなどの主要成分であるキチンが蓄積し、肺線維症、喘息、真菌感染症といった疾患リスクが増加することが知られています。これらの疾患は、キチン蓄積による慢性的な炎症が原因で、肺組織の損傷や線維化を引き起こします。しかし、現行の治療法ではこれらの病態を十分に改善することが難しく、新たな治療法の開発が求められています。
 これまで、生命化学科の大川一明さん(客員研究員)と小山文隆教授らの研究グループは、ヒト Chia がマウスの Chia と比較して低活性であることを報告しており、ヒト Chia の61番目のアミノ酸をアルギニン(R)からメチオニン(M)に置換することで活性が大きく向上することを明らかにしています(Okawa et al., Mol. Biol. Evol., 33, 3183–3193, 2016)。
 今回の研究では、強力なキチン分解活性を有するカニクイザル (Macaca fascicularis) の Chia 由来のアミノ酸置換をヒト Chia に導入することで、高活性化を実現しました。改変されたヒト Chia(M-9)は、従来のヒト Chia を大きく上回る広い pH 範囲で高い活性を維持し、さらに熱安定性の向上も確認されました。この高活性化ヒト Chia(M-9)は、キチン蓄積が原因となる肺疾患の治療に利用できる可能性を秘めた重要な酵素として期待されています。
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図の説明:カニクイザル由来の9アミノ酸による高活性化ヒト Chia(M-9)の作製
ヒトWT: 通常のヒト Chia は活性が非常に低い。
ヒトR61M: 61番目のアミノ酸をRからMに置換すると、活性が大幅に向上。
カニクイザル: カニクイザルの Chia は強いキチナーゼ活性を持ち、至適 pH は5。
M-9: カニクイザル由来の9アミノ酸をヒト R61M Chia に導入することで、高活性化が実現し、pH 1~8の範囲で活性を示す。

要旨(研究概要)はPDFをご覧ください。

<論文情報>
雑誌名:The Journal of Biological Chemistry (JBC)
論文名:Hyperactivation of human acidic chitinase (Chia) for potential medical use
掲載号: J. Biol. Chem. (2025) 301, 108100
URL: https://www.jbc.org/article/S0021-9258(24)02602-4/fulltext
発表者:工学院大学 先進工学部 生命化学科 生物医化学研究室
著者: Okawa, K., Kijima, M., Ishii, M., Maeda, N., Yasumura, Y., Sakaguchi, M., Kimura, M., Uehara, M., Tabata, E., Bauer, P. O., & Oyama, F.