生物医化学研究室 マウスの酸性キチナーゼが,生体内 pH 条件下で,キトサンからキトオリゴ糖を生成できることを解明

 キトオリゴ糖は,炎症や腫瘍形成を抑制するなど,様々な生物・医学的活性を有している。しかし,生体内でキトオリゴ糖が生成されるかどうかについては知られていなかった。脇田らは,酸性キチナーゼ(Chia)が,胃と肺のpH条件下で,キチンの脱アセチル化体であるキトサンからキトオリゴ糖を生成できることを示した。Chia は,キチンを分解し,N-アセチル-D-グルコサミン(GlcNAc)の二量体を生成することは知られていた。まずこの論文では,マウス Chia が,不均一に脱アセチル化されたキトサン(ブロック型キトサン)から,胃の条件である pH 2.0で,GlcNAc 2∼9量体までのさまざまなサイズのキトオリゴ糖を生成することを示した。さらに,均一な脱アセチル化キトサン(ランダム型キトサン)から,胃や肺の pH 条件下(pH 2, 5, 7)で,ブロック型よりも,より多様なサイズのキトオリゴ糖が効率的に生成されることを示した。以上の結果は,マウスの Chia が,生体内条件下で,キチンの部分的脱アセチル化体であるキトサンを分解し,多様な生理活性を有するキトオリゴ糖を生成できることを示している。そして,このようにして生体内で生成したキトオリゴ糖が,様々な生理的または病理的プロセスに影響を与える可能性が考えられる。さらに,Chia と均一に脱アセチル化されたキトサンを用いた効率的なキトオリゴ糖の作製が可能であることを示した。

 この研究は客員研究員の脇田悟誌さん(2017年度 大学院化学応用学専攻 博士後期課程修了)が中心になって行った成果である。

<発表雑誌> 掲載雑誌: Molecules 26, 6706 (2021).
論文タイトル:Mouse Acidic Chitinase Effectively Degrades Random-Type Chitosan to Chitooligosaccharides of Variable Lengths under Stomach and Lung Tissue pH Conditions.
URL:https://www.mdpi.com/1420-3049/26/21/6706/htm
DOI: 10.3390/molecules26216706
発表者:工学院大学 先進工学部 生命化学科 生物医化学研究室
Satoshi Wakita, Yasusato Sugahara, Masayuki Nakamura, Syunsuke Kobayashi, Kazuhisa Matsuda, Chinatsu Takasaki, Masahiro Kimura, Yuta Kida, Maiko Uehara, Eri Tabata, Koji Hiraoka, Shiro Seki, Vaclav Matoska, Peter O. Bauer and Fumitaka Oyama