生物医化学研究室、ヒト酸性ほ乳類キチナーゼの活性の喪失・復活~酵素補充療法への挑戦~を発表

 酸性ほ乳類キチナーゼ(AMCase)は,喘息,アレルギー性炎症,食物消化にかかわっている。AMCaseのキチナーゼ活性の遺伝および進化的制御に関してはあまり知られていなかった。ヒトAMCaseのキチナーゼ活性は,マウスに比べ約1/70程度だった。ヒトとマウスでAMCaseのキメラタンパク質を作製し,活性中心を含むヒトAMCaseのN末領域が酵素のキチナーゼ活性を顕著に低下させていることが分かった。さらにヒトAMCaseのキチナーゼ活性はアミノ酸置換を伴う一塩基置換(nonsynonymous SNPs) に依存して変化することが分かった。特に,ヒトAMCaseのキチナーゼ活性は,ヒトAMCase に存在するnonsynonymous SNPでコードされた R61 で活性が低下し,マウスに存在する M61で強く上昇した。M61 はヒトとオランウータン以外のほ乳類で保存されていた。この結果は,ヒトAMCaseが,進化の過程でnonsynonymous SNPsによってコードされたR61に置換されたことで活性を失い,他のほ乳類のAMCaseに保存されているM61を導入することによって活性化することを示した。
 G339T(R61M)変異(R→M への置換)がアフリカ系アメリカ人で,喘息に対して保護的に働く,として報告されている(J. Biol. Chem. 284,19650-19658)。今後,様々な人種での集団遺伝学的大規模解析で,喘息と R61/M61 との関係を明らかにすることができる。さらに活性化したヒトAMCaseは補充療法に使うことができる。
研究成果(Okawa)