生物医化学研究室 ヒトとマウスのキトトリオシダーゼの機能比較解析:アミノ酸 218 位の置換はキチン分解活性と糖転移活性を調節することを解明

 キチンは,N-アセチル-D-グルコサミン (GlcNAc) のポリマーである。キチナーゼはキチンを加水分解する酵素である。キトトリオシダーゼ (Chitotriosidase, Chit1) と酸性哺乳類キチナーゼ (acidic mammalian chitinase, AMCase) は,それぞれゴーシェ病や喘息などの様々な病態に関与していることから注目されている。両酵素はマウスでは高いレベルで発現するが,ヒトでは AMCase の発現レベルが低い。また,組換えヒト AMCase のキチン分解活性はマウスよりも著しく低いことが分かっている。本研究では,マウス Chit1 と比較して,人工および天然のキチン基質に対するヒト Chit1 のキチン分解活性および糖転移活性が高いことを明らかにした。ヒト Chit1 の218 位のロイシン (L) をトリプトファン (W) に置換すると,両方の活性が著しく低下した。逆に,マウス Chit1 の L218W 置換は,酵素活性を高めた。これらの結果は,ヒトで、Chit1 が、AMCase の活性の低さを補っている可能性があり,マウスでは活性が高い AMCase がChit1 の活性の低さを補っている可能性があることを示唆した。

 この研究は生物医化学研究室と東京薬科大学薬学部免疫学教室の共同研究で,化学応用学専攻博士後期課程修了の木村将大さんと修士課程修了の渡邊尭さんが中心になってまとめた論文である。

<発表雑誌>雑誌情報: Int J Biol Macromol. 164, 2895-2902 (2020).
論文名:Comparative functional analysis between human and mouse chitotriosidase: Substitution at amino acid 218 modulates the chitinolytic and transglycosylation activity
DOI: 10.1016/j.ijbiomac.2020.08.173.
URL:https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0141813020342653?via%3Dihub
発表者:工学院大学 先進工学部 生命化学科 生物医化学研究室 Masahiro Kimura, Takashi Watanabe, Kazutaka Sekine, Hitomi Ishizuka, Aoi Ikejiria, Masayoshi Sakaguchi, Minori kamaya, Daisuke Yamanaka, Vaclav Matoska, Peter O. Bauer and Fumitaka Oyama