生物医化学研究室、FACE 法の改良とそれを用いた酸性ほ乳類キチナーゼの性質を解明

キチンは N-acetyl-D-glucosamine (GlcNAc) が β-1,4 結合した重合体で,甲殻類および昆虫の外骨格,寄生線虫の外殻および真菌類の細胞壁の主要成分である。ほ乳類はキチンを合成しないが,その分解酵素であるキチナーゼを発現している。酸性ほ乳類キチナーゼ (acidic mammalian chitinase, AMCase) はマウスの胃で大量に合成され, その他に顎下腺や肺でも発現している。マウス AMCase は,pH 2.0 で最も活性が高く,pH 8.0 まで活性を有している。本研究では,Jackson氏 が開発した Fluorophore-Assisted Carbohydrate Electrophoresis (FACE) 法を用い,AMCase の生体内条件での反応産物を解析した。キチン基質とAMCaseを pH 5.0-8.0 で作用した際に,主要な分解産物 [GlcNAc 二量体,(GlcNAc)2] に加え,キチンオリゴ糖マーカーから予測される生成物より移動度の遅い反応副産物が生成された。この副産物の生成は,蛍光標識の直前に濃酢酸の添加により試料を酸性化することで抑制出来た。この改良法は,50 nmol までのキチンオリゴ糖の定量を可能にした。この改良法を用いて,pH 2.0― pH 8.0の条件での生成物を再評価したところ,AMCaseは,中性条件において,これまでの主生成物である (GlcNAc)2 に加え (GlcNAc)3 を生成した。この結果は,AMCase が生体内 pH 条件下において新たな性質を有する可能性を強く示唆した。
研究成果_脇田